岡山地方裁判所 平成4年(ワ)309号 判決 1993年1月25日
主文
一 被告は原告に対し、一億一七六〇万三九二一円及び内金二八五七万五〇〇〇円に対する昭和五九年七月三一日から、内金二五七六万八〇六〇円に対する同年八月一八日から支払い済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
主文同旨
第二 事案の概要
一 原告が取得した求償債権の内容
1 訴外水島信用金庫(以下「訴外金庫」という)は訴外内海建設株式会社(以下「訴外会社」という)に対し、昭和五〇年五月一九日、三〇〇〇万円を次の約定で貸付けた(以下「第一貸付」という)。(甲一、二、四、六、証人岡野石男)
利息 年一〇・三パーセント
弁済方法 元金は、昭和五〇年九月から昭和五五年八月まで毎月一八日限り五〇万円宛六〇回支払い。
利息は、昭和五〇年六月一八日を第一回とし、以後元金の約定返済日に一か月分の利息を後払いする。
損害金 年一八・二五パーセント
特約 和議開始の申立のあったときは期限の利益を失う。
2 訴外金庫は訴外会社に対し、昭和五一年五月三一日、三〇〇〇万円を次の約定で貸付けた(以下「第二貸付」という)。(甲一一、一二、一五、一六、証人森岩男)
利息 年九・八パーセント
弁済方法 元金は昭和五二年一二月から昭和五七年一一月まで毎月三〇日限り五〇万円宛六〇回支払い。
利息は昭和五一年六月三〇日を第一回とし、以後毎月三〇日に一か月分の利息を後払いする。
その他は第一貸付に同じ。
3 原告は前記第一、第二貸付債務につき訴外会社から保証委託を受けたので、これを承諾し、訴外金庫に対し第一貸付については昭和五〇年五月七日、第二貸付については昭和五一年五月三一日その貸付債務を各保証したが、右各保証に当たり訴外会社は原告に対し、原告が訴外金庫に対し訴外会社の前記債務を代位弁済したときは、訴外会社は原告に対しその代位弁済額及びこれに対する代位弁済した日の翌日から支払い済みまで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨約した。(甲三、一三)
4 訴外会社は、岡山地方裁判所に対し、昭和五一年一〇月三〇日和議開始の申立をしたので、同日期限の利益を喪失した。(甲八)
5 原告は昭和五二年二月五日、訴外金庫に対し、訴外会社に代位して次のとおり弁済した。(甲九、一九)
(一) 第一貸付につき、二七一六万九四四六円(貸付残元金二五五〇万円、利息一六六万九四四六円)
(二) 第二貸付につき三一五三万〇四一〇円(貸付残元金三〇〇〇万円、利息一五三万〇四一〇円)
6 原告は、右求償債務の弁済として、第一貸付につき昭和五九年八月一七日までに別紙計算書(一)記載のとおり合計一五二万九一二三円(内金一四〇万一三八六円は元金に、内金一二万七七三七円は約定損害金に充当)の支払いを受けた。
また第二貸付につき同年七月三〇日までに別紙計算書(二)記載のとおり合計三一二万三一一六円(内金二九五万五四一〇円は元金に、内金一六万七七〇六円は約定損害金に充当)の支払いを受けた。(弁論の全趣旨)
二 争点
1 被告が原告に対し、訴外会社の原告に対する前記3の求償債務につき連帯保証したかどうか。
2 消滅時効が成立するか否か。
被告は、本件連帯保証債務につき原告から督促を受けた昭和五三~四年以降何の請求も受けていないので、五年を経過した昭和五九年一二月末をもって時効により消滅した旨主張している。
原告は、昭和五四年六月根抵当権に基づく不動産競売事件(昭和五四年(ケ)第五七号)を申し立て、同月二八日競売開始決定を受け、昭和五九年一月一九日配当金を受領し、更に昭和六〇年一月二五日根抵当権に基づく不動産競売事件(昭和六〇年(ケ)第一八号)の競売開始決定を受け、現在手続が進行中であるので主債務者に対する消滅時効は完成していないから、連帯保証人たる被告に対する消滅時効も完成していない旨主張している。
更にこれにつき被告は、右競売申し立ては物上保証人に対するものであるから、主債務者に対する時効中断事由にならない旨主張している。
第三 争点に対する判断
一 連帯保証について
第一貸付につき、信用保証委託契約書(甲三)、金銭消費貸借契約証書(甲六)、第二貸付につき、信用保証委託契約書(甲一三)、信用金庫取引約定書(甲一五)、金銭消費貸借契約証書(甲一六)の各連帯保証人欄に被告の住所・氏名の記載と印章の押印があり、被告は住所・氏名の記載は否認しているが、各被告名下の印影が被告の印章により顕出されたことは当事者間に争いがないから、特段の事情のない限り、右印影は被告の意思に基づいて顕出されたと推定される。
被告は本人尋問において右連帯保証を否認しているが、証拠(甲七、一〇、一八、二〇、二四、二五、乙一、三、証人森岩男、被告本人)によれば、被告は訴外会社の工務担当の取締役であったこと、昭和五〇年六月三日自己所有の土地・建物に訴外会社を債務者として極度額一四〇〇万円の根抵当権を設定していること、昭和五一年五月ころ、訴外会社が原告の信用保証付きで融資を受けるに際し、訴外会社の再建計画が提出され、訴外会社の役員が原告方に来たが、その際被告も取締役として原告に融資を頼んでいること、被告は同年七月に訴外会社を退職しているが、前記根抵当権についても競売開始になるまで放置し、また昭和五二年二月五日付の原告の代位弁済通知に対しても、連帯保証をしていない等の異議は言っていないこと、被告は実印は施錠した机の引き出しに保管し、他人に預けたことや他人に自己の印章を押捺してもらったこともなく、根抵当権設定の際には司法書士事務所で押印していることが認められ、かかる事情を併せ考えると、連帯保証を否認する被告の供述は信用出来ず、他に前記推定を覆すに足りる証拠はない。
してみると、前記連帯保証人欄の被告の各印影は被告の意思に基づいて顕出されたと認められ、したがって前掲書証の各被告作成部分は真正に成立したと推定されるから、被告は訴外会社の原告に対する求償債務につき連帯保証したものというべきである。
二 消滅時効について
原告が訴外会社の債務を訴外金庫に代位弁済してから五年が経過しているが、証拠(甲一四、二一ないし二三)によれば、原告は訴外会社に対する求償債権(第一貸付、第二貸付)を被担保債権として、昭和五四年六月岡山地方裁判所倉敷支部に対し、根抵当権に基づき訴外草地俊輔、草地一枝所有の物件について競売申し立て(昭和五四年(ケ)第五七号)をし、同月二八日競売開始決定がなされ、昭和五九年一月一九日原告に配当金が支払われたこと、更に原告は昭和六〇年一月前記債権を被担保債権として同裁判所に対し、根抵当権に基づき訴外内山憲一所有の物件について競売申し立て(昭和六〇年(ケ)第一八号)をし、同月二五日競売開始決定がなされ、現在競売手続が進行中であることが認められる。
尤も被告は、物上保証人に対する競売申し立ては主債務者に対する時効中断事由とならない旨主張するが、物上保証人に対する根抵当権の実行により、競売裁判所が競売開始決定をし、これを主債務者に告知した場合には、被担保債権についての時効は中断すると解すべき(最高裁昭和五〇年一一月二一日判決参照)であり、各競売開始決定が債務者に送達されたことは裁判所に顕著な事実であるから、右競売開始決定により、原告の訴外会社に対する本件求償債権の時効は中断し、消滅時効は完成していないから、連帯保証人である被告に対する債権についても消滅時効は完成していないというべきである。
三 以上のとおり、原告の請求は正当であるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(別紙)
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